緑川先輩と俺は先輩と後輩の枠からどことなく外れていた。


それは先輩も気づいているらしく、たまに「お前とは上下関係とかなれない」とやさしく笑うのだ。
先輩は俺らの関係を”しんゆう”と呼んだ。


「親しい友じゃなく、心の友でもなく、信ずる友だろうな」


先輩は「恥ずかしっ」と言って、顔を隠した。この人はたまに年上かと思うほど可愛くなる。(正直、キモイと思うときもあるが)先輩にはよく紺馬のことを話した。その時は紺馬の名前は伏せて、『彼女』だとか、『その子』だとか言っている。何故か、名前は出したくなかったのだ。




「最近は大丈夫なのか?」


先輩は唐突に尋ねてきた。先輩は俺の切ない思いを知っているわけで、そして紺馬の持つ感情も知っている。あまりにも唐突すぎた質問に俺は反応しきれず、「多分」と歯切れの悪い言葉を答えてしまった。先輩が笑う。そこからは沈黙が流れた。雲が流れていく音が聞こえそうで、俺は口を開いた。


「先輩は、元気っすか…?」
「改まってなんだ気持ち悪い」


先輩の陽気な笑い声が横から聞こえて、どことなく安心した。先輩は俺より一つ上で、本当ならとても忙しい時期のはずなのに飄々としていた。切羽詰っている様子はどこにも感じられない。


「先輩…時間は大丈夫なんですか?」
「俺天才だから」


先輩の答えに「むかつくなぁ」と笑うと、先輩も同じように笑った。










緑川先輩の朗らかな笑い声がスクリーンのような長細い青空に飛び散る。