未来は時折、突然思い立ったように走り出す。
俺はよくわからないまま、その後を追っかけていくけれど、いつだって未来の行き着く先には何も無かった。










「なんで?」






紙パックのいちごみるく片手に未来は呆けた顔をした。それは当然のことだろう。俺は主語も無しに尋ねたのだから。






「何が?」






未来が怪訝そうに眉を顰める。これは癖なのだろうか。俺に質問をするたびに未来は眉間にしわを寄せる。だけどその仕草はとてもしっくりくる。
未来が突然走り出すことについて話すと、未来は青空を見上げて、目をつぶった。頭の中で言葉を整理しているのか、それともまた別のことを考えているのか。








「いちごみるくって案外匂いきついよね」








別のことを考えていた。そんなことだろうと思っていた俺は特にこれといった反応はできなかった。












ただここから先は聞くなとけん制されているのはよくわかった。








未来はあまり多くを語らない。そして話したくないことは絶対に話さない。


たとえそれが俺であろうと、親友の伊藤さんであろうと絶対に話さない。それで大丈夫なのだろうかとたまに思うこともあるけれど、これは未来なりの防護策なのかもしれない。そう思うと全く手も足も出なくなってしまう俺はそうとう臆病なのだろう。


ストローが音を鳴らす。飲み終えたいちごみるくのパックを未来は豪快に握りつぶした。それを横目に見ているとふいに未来が俺の肩に触れた。横を向くとあり得ない近さで彼女がいて、わずかに後ろに引く。












「近…」

「いちごみるくのにおい、するでしょ?」








意味不明な未来の行動は慣れていた。だがしかし、この距離はないだろう。自分だって男だ。未来も男らしいけれど女の子だ。煩悩が大体を占めている自分の頭では愚かなことしか考えられない。それを未来はわかっているのだろうか。




「くさい?」




わかっていなさそうだ。
無邪気に笑う未来。彼女の表情を潰すことなど今なら簡単に出来る。


でもそれをしないのは、彼女が大事で、彼女といる空間が好きで、わざわざ今の関係を潰してまで未来のことを困らせたくないから。




















というのは、本当は全部嘘だ。


ただ単純に俺は臆病。