いつから彼女を気にかけるようになったのか、覚えていない。
気づいたら、彼女のことを考えるようになっていた。触りたいと思うようになっていた。
でも、そんなことがバレてしまうのが怖い。彼女に俺がそんなことを考えていると知られてしまったら、おそらく拒絶されてしまうだろう。


彼女はそういう感情を嫌っていた。










紺馬に頼まれたことを考えながら、仲のよいメンバーでつかの間の談笑を楽しむ。 紺馬は相変わらず、男っぽい振る舞いで笑っていた。(俺の前ではもっと、マシだ)
その輪の中にはもちろん生瀬もいたが、紺馬との距離は遠かった。
たぶん、紺馬が避けたのだろう。
自分が1番恐れていることが起こらないように。そして様子を見るために。
紺馬はそういうことに関しては用心深かった。
出来る限り、人を寄せ付けないようにそういった好意を持たせないように装った。 だから、紺馬は男子のような振る舞いを見せる。(でも俺の前では、女の子だ)
自惚れそうになるが、紺馬はたぶん唯一俺に関しては警戒していないのだろう。
紺馬がそういうことが嫌いだと打ち明けたのは俺だけらしい。 そんなことを言われておきながら、何か行動を起こそうと思うほど俺はバカじゃない。俺には絶対的な信頼があるのだ。

(…複雑)










「紺馬、昼休み空いてる?」


チャイムが鳴り始めた頃、みんなが散り散りになっていく中で生瀬が声をかけた。
頭がしん、と震えた。あの時の紺馬の顔を思い出して、焦る。しかし、どうしていいのかがわからない。 紺馬がどう答えるのかをただ呆然と後ろから眺めていた。






「ごめん。昼はメガネに用事があるから」


「なんだよ、またか。ラブラブだなー」


「…メガネってなんだよ、紺馬」






生瀬の最後の一言にひやりとしながらも、上手くかわしたなと紺馬を見た。
振り返った紺馬が困ったように笑っていた。






「…大丈夫か?」


「わかんない。…みんなと仲良く過ごしてたいんだけどなー…」






すれ違いざま、紺馬はそう呟いた。ぎこちない笑みがちくりと胸を刺す。
チャイムが鳴り終わる頃には先生が教壇に立っていて、紺馬は何もなかったかのように席についていた。















紺馬に助けてくれと言われたが、どうしていいのか、正直わからなかった。
好きな子を守ることは当然のことだが、相手が恋敵ともなると複雑である。
今の生瀬の立場を俺に置き換えたら、胸が痛くなった。
紺馬にこんな風に拒絶されたら、ある意味生きていけないだろう。
だから、俺は俺であることに感謝をした。そして同時に、ひどい罪悪感と闘った。
仕方ないと言い聞かせても胸がちくちくしてしまう。下手をすると、たまに泣きそうにもなる。










俺の身勝手な感情のためなのか。それとも紺馬の繊細な世界のためなのか。
何のために彼女を守っているのだろう。










もはや、俺にはよくわからなくなっていた。