紺馬と目が合った。
紺馬は教室の扉付近で立ち止まって、こっちを見ていた。
俺と目が合うとそれを逸らさないで、じっと固まった。その視線はまるで自分を呼んでいるようで、彼女の元へと行こうとすると、紺馬は廊下へと出て行ってしまった。その後を追うように教室を出ると、案の定紺馬は廊下で俯いて、俺を待っていた。
何かあったのかと尋ねるとゆっくりと顔を上げて、言いにくそうに唇を歪めた。目には明確に”悩んでいる”と書かれていた。




「助けて、ほしい」






懇願する声に目を見開いた。紺馬がこんな声を出すとは思っていなかったし、そもそも彼女はあまり頼み事をしない。人に頼るのは気に食わないそうだ。よほど今回は切羽詰っているのだろう。息苦しそうな彼女の姿に動悸が激しくなる。




「今、言える?」






こくりと小さく頷く。






「どした?」






小さな子供をあやす様に尋ねると、言い難そうに口を開いた。










「生瀬が、私に、気があるみたいで」










嘘だろ、と自然に言葉が出た。すると紺馬も勘違いかもしれないけれど、と慌てて弁解をする。どうしてそう思ったのかを尋ねると、最近生瀬からのメールが増えたのが原因らしい。そしてそのメールでは何度と無く、そのような事を示唆するかのような内容が打ち込まれているらしい。






「やたら、私に構ってくるし」






静かに呟いてから、はっとして気の所為かもしれないと付け加えた。紺馬はしっくりこないのか、悩ましげに眉を寄せた。
その姿に動悸が激しくなって、胸が痛くなる。(俺だって)身勝手なことを思うが、紺馬のことを考えると自分の愚かさに腹が立った。




だけど何故だろうか。メールならば俺もよくするし、紺馬のことは俺の方がよっぽどかまっている。
なのに何故、俺のことは拒絶しないのだろう。


俺と生瀬では何が違うというのだろう。
















「わかった」














でも今はただ彼女を安心させる他に方法はなくて、紺馬は困ったように笑った。