「お前らホント付き合ってるみたいだな」
生瀬のやつが余計な事を言った。俺は瞬間、かあと顔が熱くなったが、すぐに血の気が引いていった。
「あはは!そうみえる?」
冗談めかして紺馬が笑う。「違うわよ」と紺馬は付け加えて、俺は少し寂しく感じた。でもその気持ちを叱りつけた。
紺馬の手が僅かに震えている。
それを知った所為か、見る見る笑顔は貼り付けられた能面へと変わった。(やってしまった…)
しかし今日の紺馬は調子が悪いのかもしれない。二言三言、生瀬と言葉を交わしてから、静かに退出する紺馬。俺はそれを追いかけるか、追いかけないか、迷って、結局その場の賑やかさに流され、しこりを残したまま溶け込んでいってしまった。
しかしながら、しこりだけはいつまでたっても溶けず、紺馬に声をかけたくなった。チャイムが鳴ると、紺馬は教室に戻ってきた。
その時の紺馬は一切、俺と目をあわそうとしなかった。(そう思っているのは自分だけかもしれないけれど)
授業は始まって、紺馬は机に突っ伏して、俺はそんな彼女をただ遠巻きから眺める。
胸焼けでもしたかのような感覚がぐいぐいと前面に押し出される。
彼女は一体何を拒んでいるのだろう。
俺にはあんまりわからなかった。
女の子は皆、恋愛とかそういうのが好きなんじゃないかと思っていた。
少女漫画とか、そういうピンク色みたいなイメージのふわふわした夢が好きなんじゃないかと思っていた。
でも紺馬は違った。
彼女は女の子で、いくら身長が高かろうと俺にとっては可愛い女の子で、大好きな女の子だった。
でもそんな僕の想う女の子は女の子を嫌っていた。
少し語弊があるけれど、確実にそうだった。
何が彼女をそんなにも追い詰め、脅かすのだろう。
その真実を俺は知りたかった。
大好きな女の子を脅かす恐怖から守りたいとさえ願った。
でも僕の大好きな女の子はその想いすら恐怖だった。
突っ伏した紺馬が微塵も動かないのを眺めながら、静かな時間を過ごす。
息をする速度も、心臓の動く間隔も、狂わせてはいけない。
少しでも狂わせてしまうと、女の子は死んでしまうかもしれない。
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