友達ではない。そして恋人ではない。

俺らの関係は端から見れば、恋人に見えるだろうけれど、そんなことを口走ろうものなら今、俺の隣で鼻歌まじりにアイスを貪っている紺馬に殺される事だろう。俺は一度、殺されかけた。(その時まで紺馬がそんなに力があると思っていなかった。誰だ、人は見た目が九割って言った奴!!)


「何考えてんの、エロメガネ」
「おま…その言葉遣い辞めなさい…」
「アンタ年頃の娘もつお父さんみたいだわ」

紺馬はアイスを食べながら、くつくつと笑った。紺馬は笑う。よく笑う。普通に女の子である紺馬は(なんかやたら強い奴だけど)普通に女の子なんだ。
紺馬は身長が高かった。俺よりは低いけれど、彼女は170cmあるらしい。 彼女自身そのことをかなり気にかけているらしいが、俺から見ればそんなこと大した事ない。確かに紺馬より低い男子はクラスに大勢いる。もちろん紺馬より高い男子だって、俺みたく少数いる。

それでも紺馬は女の子。普通に女の子。




だから俺は、紺馬が、好き、だ。




それでも紺馬はそういう関係を拒む。俺じゃなくとも、誰かと”恋人”にはなりたくないそうだ。
紺馬とそんな話をした時、「そんな薄ら寒い関係、私には必要ないわ」とあからさまに不愉快と言わんばかりの顔をして切り捨てた。俺には理解できなくて、そのまま口を噤む以外に何も出来なかった。

いつの間にか友達以上恋人未満になった俺たちは常に一緒で、それでも紺馬はそういう情を持っているわけではなくて、俺は持っていて、隣にいれるだけで満足だと思って、

でも、
やっぱり、

紺馬が好きだ。


「なぁ、紺馬…」
「あ、ひよちゃんだ。ひよちゃーん!」

紺馬が俺の隣から数メートル先の友人の元へと走り去った。
そこに残ったのは紺馬の気配と行き場を失った言葉。

雨上がりのぬるりとした湿気がやけに重たく感じた。




それでも俺は、紺馬が好きだ。