姿見に映る自分はあまりにも情けなかった。 ぶらりと垂れ下がった腕の先で携帯が必死にしがみ付いている。落とすことはしないけれど、持ち上げる事すらしなかった。一気に気だるさが自身を襲った。シンとの電話は現実だったのだろうか。(俺の妄想かもね)そう思うとちょっとだけ気分が上がった。
目を閉じると三國さんの顔が浮かんだ。
自分の力を誇示したいわけでもなかった。ただ単純に通行の邪魔だったり、向こうが絡んできただけとか、とにかく俺は被害者だった。なのにいつの間にか加害者になって、町のヒーローになって、不良らのラスボスになって、三國さんの憧れの人になっていた。
はっきりしているのは俺は三國さんに憧れてほしいわけじゃないということ。
(じゃあどうしたい、俺)
なのに俺は三國さんを傷つけた。俺の変なプライドの所為で。俺の頑固な利己心の所為で。
彼女を初めて知った時、俺は三國さんの目しか見ていなかった。(見えなかったの方が正しいか…)
瞼を開けるとやっぱり目の前には俺がいた。情けなくて、背中の曲がった俺がいた。三國さんの背中は綺麗に伸びていた。なんとなく思い出す。しゃきっと伸びきっているのではなくて、とにかく綺麗だった。ゆったりとした余裕を持った背筋だった覚えがある。(まだ思い出せるな…)今ごろ彼女はどうしているのだろう。保健室に行っていると聞いたけれど、もう大丈夫なのだろうか。それとも早退とかしたのだろうか。風邪でもひいたのだろうか。(いやでも三國さんは可愛いおバカさんだから夏風邪なんて…)むしろひきそうか。ちょっとだけ可笑しくなる。彼女の行動のひとつひとつはいちいち可愛かった。小動物みたいな動きで、くるくると変わる表情。数学に苦戦した時の困った顔は可愛い。でも笑った顔が一番好きだ。ぱっと明るくなる表情。彼女がまるで光を放つかのような瞬間。でもそれはぎらぎらとした光ではなく、穏やかな光。優しく包み込むような、暖かい日差しのような光だった。
心地よく、身体がぞわりとした。(ああ…)
君の顔が見たい。君の笑顔が見たい。君の優しい微笑みが見たい。(見たいよ、三國さん)
俺はずるい。ずるくて、自分の事しか考えていない。
ぎしっとベッドのスプリングが軋んで、俺の身体を受け止めた。天井に向けて手を伸ばすと、重力を感じた。その重みさえもだるい。(俺、人間失格だな)
自分で見る自分の顔は情けなくて、一体皆は俺のどこを見て、何を思っているのだろう。(ああ、でも俺友達シンしかいないな)
自分の顔が情けなくて、神様から顔を隠すようにそのまま眠り込んだ。
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