は真理子ちゃんのこと、先輩より先に知ってました」


佐野の言葉に首を傾げる。
客の少ないコンビニエンスストアで静かな戦いが始まろうとしていた。


「どういう意味だ?」

「そのままです」



立ち読みをしていた客が一人出て行く。それを目で追ってから、隣を見た。
佐野の誇らしげな横顔を視線だけで焼いてしまえないだろうか。
一瞬そんなことが頭を過ぎったが、はっとして前を向いた。


「先輩は彼女に何を求めてるんですか」


客が一人入ってくる。マニュアル通りの応対で迎え入れれば、また雑誌棚の前で立ち止まった。


「先輩のやっていることは生殺しって言うんじゃないんですか」


捲し立てるような佐野の言動に眉を顰める。




こいつはわかっているのだろうか。


俺と彼女はそんな関係にはなり得ないことを。


俺が望んだところで彼女はどうにもならない。
力強く根付いた大木のような少女だ。そして俺は臆病で、彼女の存在に尊敬さえ覚えるただの村人。
眺めて、見上げて、時々触って、彼女の存在を確かめる事しか出来ない。
だからこそ同じ人間である佐野に嫉妬と怒りを覚えてしまう。


悪いのは間違いなく臆病な自分であるというのに。




「彼女は」


佐野の声に俯いていた顔を上げた。


いけない。今は勤務中だ。





しかし隣のこの男の言葉は止まることを知らない。





「いつも」


一人、客がまた出ていく。
それを告げるベルの音を遠くで聞きながら、佐野に意識を奪われる。
閉まりきった扉が、また来客を告げた。
条件反射でそちらを向けば、俺は自然と声が漏れ出た。



小さな声が出てしまった。









「いつもこの時間帯、この曜日に来るんですよ」


マニュアル通りの対応が出来ない。
店の中へと入ってきた少女に目を奪われる。


長く黒い髪とそれに見合った白い肌。
息が止まりそうだ。息が止まると非常に困る。







「気づいていないのは先輩だけです」



勝ち誇ったような表情が見ずともわかった。
ひどい焦燥と嫉妬が身体の奥底から湧き出てくるような感覚に陥る。 こんな気持ちになるなんて思いもしなかった。 視線に気づいた少女がわずかに微笑む。











その横顔が今の俺には安堵と悲哀を感じさせた。











であれと、に願う

彼女の存在の驚異と、彼の存在の脅威と、