彼女は気づけば目の前にいた。 長くて艶のある髪がきれいで、小さな唇が弧を描くのが美しい。 ６歳下で幼いかと思いきや、力強い魅力がある。 俺よりも大人で、考えがしっかりしていて、 たまに怯えるけれど、でも信念を持っている。 それなりに考えを持っていた自分だったけれど、彼女の強さの前で尋ねられた。 それでいいのか、と。 彼女が直接言ったわけではないけれど、自分には聞こえた。 それでいいのか。 それで本当に、満足か。 彼女の存在は驚異であり、脅威であった。 あの小さな手に掴まれた心臓は今にも止まりそうで、 紡がれる言葉は息を止めようとする。 「山内さん」 彼女が呼ぶ。小さな笑顔が眩しく、輝いて、俺を呼ぶ。 「真理子ちゃん」 俺はいつの間にか彼女をそう呼んでいた。 彼女も同様に俺を山内さんと呼んでいた。 いつからかなんて覚えていない。 初めて出逢ったのはどこだったろう。 彼女が目の前にいることは当たり前で、そこに意味を求めなかったし、意味は無かった。 ただ単純に彼女は俺の前に現れて、俺は彼女の前に現われた。 本当にそれだけだった。 そこからはまだ、紡がれていない。